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本『ロボットという思想』 浅田稔 NHK出版

 

人間と同じような構造(体)を持ったロボットを作り、それに学習・発達をさせることで、「人間」についてもっとよく知ろうとする、「構成論的アプローチ」についての本です。

印象に残った一番のポイントは、「体の構造が脳を作る」という部分。

脳には、体と独立した機能があるのではなく、体との関係で必要となった機能があるはずです。であれば、脳の構造は、実際に出来上がりつつある体を使って作り上げなくてはならないし、そうすればいい。つまり、胎児や乳幼児の段階で、体を使いながらいろいろな関係性を学習をしてゆけばいい、ということです。

脳の配線も人間の体の構造の一部だし、体だって他の部分と影響を相互に与えながら作られていくものなのだから、「生得的な脳の機能」というものを、どこかで線を引いて考えても仕方がないということかもしれません。

学習も、どこかの段階から始まって終わるるものではなくて、人間の構造を形成する、発生や成長の延長なのでしょう。発生や構造化のプロセスを、自分の体、親の体から、外部の環境へとだんだんと広げて自分に取り込んで行くということなら、「完成した状態」というものも無いのかもしれません。

そして、脳の機能が人間の体の形によって構造化されるものならば、人間のような体を持たないものが、人間のような心や知能を持つことはない、というのもこの本の主張の一つになっていると思います。

それでは、人間とは異なる体の形を持つものは、その形(外とのかかわり方)に応じて、人とは異なる心や知能を持つのでしょうか。話をする自動車や、引きこもってネットばかり見ている知能というのはありうるのでしょうか。そしてそういうものができた時に、彼らと対話することが、人間にはできるのでしょうか。それとも、人間と同じものだけを、知能と呼ぶことになるのでしょうか?

 関係する記事:

『言葉をおぼえるしくみ』ちくま学芸文庫 今井むつみ 針生悦子

英語をはじめとする印欧語では、a や the 等の冠詞を付けたり、付けなかったりすることによって、材質と物体を分けていますが、日本語では、材質を表す言葉も、物体を指す言葉も、言葉の形の上では明確な違いがありません。
このような言葉の違いに対して、「材質と物体を分けていない言語の話者は、その違いを理解していない」と、哲学者の「クワイン」という人は言ったそうです。さて、本当なのでしょうか…。

また、中国語の動詞は日本語(5段活用)や英語(過去形、三人称)などのように、変化をしません。そのため子供はいつも同じ単語を聞くことができるので、中国語が母語の子供は動詞の獲得が早い、という意見があるそうです。さて、本当なのでしょうか?

 

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『アブダクション 仮説と発見の論理』米盛裕二 勁草書房

論理的な推論や物理学では、あらかじめ決められたルールや法則に従って、推論や計算を進めることで結論を導き出したり予測をすることができます。

では、そのルールや法則はどうやって作り出したらいいのでしょうか?

「すべての人間は死ぬ」や、「f=ma」などの、従うべきルールはどうやって見つけられるのでしょうか。

それについて説明しようとしたのが、パースという人の唱えるアブダクションという考え方です。

 

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マンガ-3.b 「チューリングマシン② 万能チューリングマシン

チューリングマシンは、決められたルールに沿ってカード(記号)を書き換える操作であればどんなものでも、レールのつなぎ方(状態遷移)を変えれば実現できる機械でした。たとえば論理の推論や、数学の計算のルールなども、カードと線路の組み合わせで実現ができます。

ですが、ルールを変えるたびに、線路を実際につなぎかえていたのでは大変です。

そこで、その線路のつなぎ方をカードで 表して、それに従って動く機械をつくれば、カードの並び方を変えるだけで、どんなルールでも実行できるようになります。これが万能 チューリングマシンです。

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本『自然とギリシア人・科学と人間性』エルヴィン・シュレーディンガー(水谷淳訳) ちくま学芸文庫

不完全性定理やコンピュータの基礎につながる、カントールの集合論は、無限には、1,2,3 …と続く整数と同じくらいたくさんある「加算集合」と、実数の様にさらにそれよりもずっとたくさんある「非加算集合」があるということを示したそうです。無限にも、「たくさんさ」の間には違いがあるというのです…。

そして、コンピュータの基礎モデルであるチューリングマシンでは、せいぜい加算無限までしか扱えません。つまりすべての実数を扱うことはできないということです。

もしこの世界が実数でできているとすると、人間の知能もコンピュータに扱いきれない性質を使っている可能性があるのではないのか…という疑問が湧いてきます。

また、物理学の理論である量子力学は、物の今の状態や未来をきっちりと一つに決められない、ということを明らかにしました。

だとすると、もし人間の知能がこの性質を使っていたら、決められたことしかできないコンピュータには、できないことがあるのではないか、たとえば人間のような自由な意思を持つことはできないのではないか、という疑問も出てきます。

この本『自然とギリシア人、科学と人間性』は、科学と古代ギリシアの思想、連続性(実数)と原子論、量子論、自由意思、二元論などの間の関係などについて、量子力学の祖の一人シュレディンガーが語ったもので、上記のような疑問への入り口にもなる本だと思いますので、少し内容にふれてみたいと思います。

この本によると、科学は古代ギリシアの時代の考え方を引き継いでいて、世界は実数なのか、自由意思はどうなるか、という問題も、そこから引き継いだ考え方に原因や関係があると言えるようです。

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マンガ-3.a 「チューリングマシン① チューリングマシン」

数学とはなにか、という議論をする中で、「形式化」というアイデアが出てきました。形式化によって数学の完全性や無矛盾性を証明することはできませんでしたが、数学をきっちりと定義したり、機械で実行するのにはとても有用な方法で、このアイデアを応用してコンピュータが作られました。

 

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ノーベル賞「場所細胞」とSLAM

ノーベル医学・生理学賞が発表されましたね。

http://www.nikkei-science.com/?p=44210

脳細胞のうち、「場所細胞」と呼ばれるものを発見・発展させた3氏に与えられたそうです。

ネズミが知らないところを歩き回るとき、「大体今このあたりかな」というのを、脳の海馬と言う場所に並んだ細胞のどれかが活動することで示す、ということを発見したということですね。

内容はいろいろなところで紹介されているのでおいといて、「全脳アーキテクチャ」という勉強会では場所細胞の話とともに、それを参考にしたRat-SLAMというアルゴリズムが紹介されてます。SLAM(Simultaneous location and mapping) というのはロボットが歩き回るときに、今いる場所を認識するのと同時に地図をつくる方法の様です。そして、場所細胞を参考にした方法として、Rat-SLAMというものがあるようです。

http://www.sig-agi.org/wba/3

https://code.google.com/p/ratslam/

というわけで、関連する文章などをざっくり読んでみました。

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