プラトンによるとソクラテスは、混乱する政治の中で人々に、人の持つべき良い性質とは何か、その考えは正しいのかどうか、などの議論を投げかけたようです。
参考文献 − 哲学者編
『ソフィスト』田中美知太郎 講談社学術文庫
ソクラテスやプラトンの論敵であり、そのため「詭弁家」という悪いイメージの強いソフィスト達についての本。実のところは弁論などを中心とした技術を、お金をもらって教える人々で、詭弁家に限られたものではない様です。
問答競技という、今で言うディベートのようなことをしていて、その流れはアリストテレスがまとめた弁論術などを通して、西洋の文化の一部を形成しているようです。
『西洋哲学史』 今道 友信 講談社学術文庫
『ソクラテス以前以後』
『ソクラテスの思い出』 クセノフォン 佐々木理 岩波文庫
ソクラテスに師事していた、クセノフォンが書いたソクラテス擁護の書。プラトンの書くような、抽象論を振り回す人ではなく、普通の道徳論を語る姿が書かれています。
そうは言ってもかなり理屈っぽいですが。
ソクラテスを起源に、プラトン、アリストテレスが、さらにはヘレニズム時代のストア派やエピクロス派と、哲学が広がっていった訳ですが、「何が良いことなのか」という形で問いを発するのは、世界の本質を問うのに比べて、大きな飛躍がいることのようです。
『哲学の誕生』 納富 信留 ちくま学芸文庫
ソクラテスが死刑となったあと、古代ギリシアでは、ソクラテスを主人公とした「思い出」を語る本が、様々な人によって書かれたそうです。プラトンやクセノフォンの著作も、そうした沢山の「ソクラテスというキャラクターを使った同人文学」の中で生まれてきたもののようです。
『国家』 プラトン、訳:藤沢 令夫 岩波文庫
プラトンの主著の一つ。よいこと(善)についての考えを、国家(ポリス)の観点から導出してみせ、さらにイデア論を展開する本です。
プラトンの本は対話文が中心で、いちいち「そのとおりです」という合いの手が入るのがうっとおしいですが、アリストテレスの『ニコマコス倫理学』の後に読んだので、問題意識の源流として興味を持続できました。
例え話としながらも、善を、国家や社会の観点で定義されるもの、国家や社会のモデルに対して決まるもの、というアイデアで議論が進められている点が興味深いです。
ずっと後にホッブスなどが、社会のモデルを構築してみせましたが、その源流もここにあるのでしょう。
『プラトンを学ぶ人のために』
プラトンのガイドとして参考にしました。
『心とは何か』 アリストテレス 講談社学術文庫
題名が一般に『霊魂論』と訳されている本です。「プシューケー」という単語は本来「息」を意味していて、それが「霊魂」や「心」と翻訳されているそうです。
翻訳のせいか、機能主義的な心の理解として読みました。ニコマコス倫理学も、機能主義的な心の理解の延長に議論がされている様に思えるので、アリストテレスの考えの中にそういう考えがあったのかもしれません。
生きているものは、入力に対する色々な動作を潜在的に持っていて、それを作動させるのが「心」だ、というアイデアが示されています。死んだ人間は、何をしても動作をしないので、心や霊魂がない状態となるわけです。
『ニコマコス倫理学』 アリストテレス 光文社新訳文庫
アリストテレスの倫理学の本です。アリストテレスの遺稿や考えを息子のニコマコスがまとめた為、この名前となっているようです。
人間というのは沢山の潜在的な機能を持っていて、人が善い人となるのは、その中から実際に善い機能を動作させた時である。だから、人は教育や訓練によって、善い機能をいつでも動作できるようにしなくてはならない、というのがその主張の一つだと思います。
動作しない機能は善ではない訳で、「それ自体でよいイデア」という発想との違いが感じられます。
この本と上の『心とは何か』は、人工知能に倫理をもたせられるのか?を考えるヒントになるように思います。
「良い人の持つ徳」が問題になった古代中国の諸子百家の時代などとも比べて見るに、人が増えて暗黙の前提では社会が成り立たなくなった時、「人の心」に名前をつけ、それを対象とした議論をして合意する必要が出てきたのだとするのなら、「人工知能」と言う、生活基盤どころか存在の基盤さえ異なる者たちとの間で成立する倫理は、どう考えたら良いのでしょう。
『ヘレニズム哲学』A・A・ロング 京都大学学術出版会
ヘレニズム時代の哲学について書かれた本です。『論理学史』(山下正男)という本で、ヘレニズム時代のストア派が命題論理を考えだした、というのを知って読んでみたものです。
この本を読んでいると、論理学の根底には、「言葉は世界の法則を表している」という、ストア派のような信仰が、今でもある様に思えてきます。
他にも、プラトンの立てたアカデメイアが、その後も懐疑派として様々な学派の説を批判的に吟味していたことなども興味深く、面白い本でした。
『物の本質について』ルクレティウス 岩波文庫
エピクロス派のデモクリトスを代表とする、古代ギリシアの原子論について書かれた詩を、普通に読める文章として翻訳したもの。
結局、古代ギリシアの原子論は、思弁的なアイデアに過ぎなかったのですが、それは人間の理解の形を表しているのかもしれません。